リスキリングの正しい意味と理解のために

リスキリングとは、新しいスキルセットをイチから学ぶコトです。

この言葉は、最近、いろいろな記事で見かけるようになりましたが、意味のとらえ方に違和感を感じるときがあります。また、これは誤解しているなと思われる文章も見かけます。

そこで、私なりの見解を加えて、「リスキリング」を整理してみました。

▍そもそもリスキリングとは

そもそもリスキリングという言葉は、2020年のダボス会議に遡ります。

ダボス会議とは、スイス・ダボス(ダヴォス)において毎年行われている『世界経済フォーラム』の通称名です。1971年から続いている会議で、経済や政治のリーダーたちが連携することで世界情勢の改善に取り組む国際機関です。

2020年の年次大会で、「リスキリング革命」が提唱されたことから、「リスキリング」という言葉が使われるようになったということです。

リスキリング革命とは、第4次産業革命に伴い変化する技術に対応するために、2030年までに10億人が新たなスキルを獲得できるように、より良い教育、スキル、仕事を提供していこうという内容です。

▍スキル獲得とキャリア形成

スキルの獲得は、キャリア形成と密接な関係にあります。

キャリアとは、その人の積み上げてきた経験です。そのキャリアは、経験の長さ、対応の幅、技術の高さで評価され、その人のパフォーマンスや人材能力として、他者との差別化に繋がります。

ビジネス社会においては、行き当たりばったりの積み上げではなく、キャリアプランを設定し、方向性を持って経験を重ねていく必要があります。それが、「キャリア形成」です。

つまり、キャリア形成には、スキル獲得が伴うのです。既存スキルの強化や高度化や、関連スキルの追加獲得によって、より優れたキャリア形成に繋がります。そして、獲得した一連のスキルを、「スキルセット」といいます。

▍アップスキリングとの違い

では、リスキリングでいうスキルは、何でしょうか。それを理解するためには、「アップスキリング」と区別しておかなければなりません。

アップスキリングとは、その人のキャリアプランに沿って、スキルセットを強化したり、増大させたりするために、スキルの深度を深めたり、関連スキルを新たに学ぶことです。単に、スキルアップというのはこちらのほうです。

リスキリングとは、その人のキャリアプラン上にない、まったく別のスキルセットを身につけるために、新たに学ぶコトであり、そのためのプロセスに入るコトです。

つまり、アップスキリングとは、これまでのスキルセットとしてスキルを獲得するコトであり、リスキリングとは、新しいスキルセットとしてスキルを獲得するコトです。

▍リスキリングを再教育と訳さない

いろいろなサイトで、「再教育」「学び直し」という訳で説明しているようですが、私は、この訳は適さないと思います。

再教育や学び直しという言葉には、同じスキルを教育し直す意味も含まれるからです。補習や補講のようなニュアンスが含まれているからです。

それに、教育という言葉には上から目線な印象を受けます。本人が自分の意志で学習し、獲得する本来の意味と異なります。

英語の訳としては、再教育でも良いと思いますが、その捉え方は、再び教育初期段階に戻って、新しいキャリア形成のために、これまでにない新しいスキルセットとしてイチから学ぶ教育というニュアンスです。

再教育と訳したことで、「リカレント教育」と混同する人もでています。リカレント教育とは、教育の反復性のニュアンスがあり、学校教育を経て社会に出たひとが、再び学校教育にもどって学ぶコトです。

▍ジョブ型雇用とキャリヤ自律

キャリア形成やスキル獲得に関して、これからの時代を見据えたときに、気になるのが以前にも書いた「スキルの所有者は本人か組織か」です。

スキルの所有者は本人か組織か(2020年11月12日)

企業が組織的に行う教育は、終身雇用と言われてきたメンバーシップ型雇用を前提としています。企業は、雇用した人材に投資をして能力を高め、企業業績の向上により回収しています。

かつての企業は、ゼネラリストと言われる「一般職」として就職し、「ジョブローテーション」により複数の職種を経験します。従業員は、人事部の言う「人材開発プログラム」に従って、企業のための万能な「人財」に育て上げられます。いわゆる「キャリアプラン」という名の下、企業が設定する敷かれたレールを進むことになります。

しかし、これからの時代は、より早い段階から自らの専門性を絞り込み、自らのキャリアプランに沿ってスキル獲得をしていく時代です。企業からのサポートも必要ですが、本人自らが「キャリア自律」しているべきなのです。

リスキリングとは、決して企業が組織的に取り組むものではありません。個人も企業も、そして社会全体もが、ともに協力しあって、新しいスキルセットの獲得に挑戦していく行為です。

そういう取り組みを世界全体として宣言したのが、2020年のダボス会議の「リスキリング革命」なのだと思います。

 

私は、知識から知恵を生み出す「ファンクショナル・アプローチ」の専門家として、改革やイノベーションのスキル獲得を目指している人に、その考え方と技術をお伝えしています。

リスキリングとしても、アップスキリングとしても役立つ思考システムだと思っています。