宇宙ペン|逸話シリーズ⑤
ファンクショナル・アプローチ(FA)思考の大切さを伝える逸話シリーズ第五弾です。
今回は、「宇宙ペン」です。
問題を複雑にしているのは、実は私たち自身かもしれないという逸話です。
▍宇宙ペン
1960年代、アメリカとソ連は宇宙開発で熾烈な競争を繰り広げていました。
その中で、ひとつの技術的な課題に両国は直面します。「無重力空間では、ボールペンが使えない」——インクが重力で流れないためです。
アメリカNASAはこの問題を解決するため、莫大な時間と費用を投じて特殊なペンを開発しました。
それは、加圧式インクカートリッジによる、どんな角度でも、無重力でも書ける画期的なペンです。宇宙飛行士はそれを自慢げに紹介しました。
すると、ソ連の宇宙飛行士はこう答えました。
「私たちは鉛筆を使っているよ。」
▍思い込みに支配されないこと
この逸話が教えてくれるのは、「問題の本質を見誤ると、解決策はどこまでも遠回りになる」ということです。
NASAは、「ボールペンが無重力で使えない」という事象を、「ペンを無重力でも使えるようにする問題」として捉えました。そして、多くの予算と時間をかけて、ハイテクな宇宙ペンを開発したのです。
一方、ソ連の宇宙飛行士は、「書ければよい」という目的に立ち返り、鉛筆というシンプルな手段を選びました。
これは、私たちの仕事やプロジェクトにおいても、しばしば起こる現象です。知らず知らずのうちに、次のような思い込みに支配されてはいないでしょうか。
・この手段しかないと思い込んでいる
・既存の枠組みの中でしか問題を見ていない
・技術的な優位性に酔い、本来の目的を見失っている
ファンクショナル・アプローチ(FA)は、手段からではなく、「目的=ファンクション(機能)」から思考を始める方法論です。
問題を複雑にしているのは、実は私たち自身かもしれません。目の前の課題に対して、「それは何のためか?」という問いを持つこと。それが、賢く、シンプルに物事を解決するための第一歩なのです。
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