時代はこう変わる 経産省の「不安な個人、立ちすくむ国家」と首相官邸の「未来投資戦略」

古い価値観と固着化した制度を変えるのか、技術革新の波に乗って成長させるのか。2つの資料が示す、異なる未来。いま何に投資し、私たちはどこへ向かっていくべきなのか!

(「Yahoo!ニュース」に投降した記事です)

▍未来は示された

日本の未来に関して2つの資料を取り上げたいと思います。

1つは経済産業省(以下経産省)の資料、5月18日に開催された経産省の産業構想審議会(会長:榊原定征氏)第20回総会で、「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」が総会資料として公表されました。

もう1つは首相官邸の資料、5月30日に開催された首相官邸の第9回未来投資会議(議長:安倍晋三氏)で「未来投資戦略2017」が公表されました。

どちらも、これからの時代を読む上で、目を通しておきたいものです。

前者の資料は、経産省の20代・30代の有志職員、30名で結成された「次官・若手プロジェクトメンバー(以下PJメンバー)」がまとめた「中長期的な政策の軸となる考え方」です。

1960年代の日本社会を前提につくられた社会システムが今も続いているから、変革や多様な選択を歪めている、という仮説から始まっています。

20年後(2040年)を想定して、人生100年の社会参画、子どもと教育への優先投資、公を担う人材などを軸に、従来の延長線で少しずつ手直しするのではなく、抜本的に組み替える時期に来ている、と提言しています。

発表の翌日から、ネットで話題になりましたのでご存じの方も多いと思います。

▍3年後という未来

後者の資料は、日本経済再生本部が行う「成長戦略と構造改革の加速化を図るための成長戦略」が示されたモノです。

民間の動きはいまだ力強さを欠いている。その理由は、長期にわたる生産性の伸び悩みと新たな需要創出の欠如が原因だとしています。

3年後(2020年)を想定して、勝ち組みとなり得る「戦略分野」への選択と集中、価値の源泉の創出に向けた共通基盤の強化などを戦略の基本的考えとしています。

6月9日にこの「未来投資戦略2017」が「骨太の方針」とともに閣議決定しました。

実は、6月13日にCode for Japanがこの流れをいち早く捉え、あっという間に『不安な個人、立ちすくむ国家ワークショップ』を企画し、開催したのです。PJメンバーと一般の人々とが、それぞれの考えを持ち寄り、これからのあるべき姿について意見を出し合い、次の時代に向けて自分たち自ら行動しはじめようというワークショップです。

筆者も、この時代を変えようとする新しいエネルギーを確認しに、ワークショップに参加してきました。

▍霞が関にもヒトがいる

まず確認したかったのが、資料の内容は、上層部の考えに従うものだったのか、本当にPJメンバーの考えをカタチにしたものかでした。

経済産業省・秘書課の山本聡一課長補佐は、「切っ掛けは次官からだったが、内容はPJメンバーの考えそのものだ」と言い切りました。ただ、「30人の意見に偏りがあることもわかっている。霞が関や若者の意見を代表しているとは思っていない。ここからブラッシュアップを始めたい」とも語りました。

PJメンバーの数人と話をする限り、彼らは本当に日本の将来を案じ、自分たちも何か行動を起こしたいという思いが、筆者には伝わってきました。

考えをただ持つだけではなく、お互いに意見を交換し、文章にまとめ、公表にまでこぎつけるだけの努力と実行力がある方たちです。そして、実名を公表し、ワークショップで一般の参加者と意見を交換できる方たちです。やる気と本気度を感じました。

行政職員の個人的な主観、主義、主張は、公にされることはありませんでしたが、こうして自分の主観を堂々と主張する彼らや、それを許す次官をみていると、時代が変わってきたなと感じざるを得ません。

実際、この資料がこれほどまでに話題なった理由をある人は、「霞が関にもヒトがいることが分かったからじゃないか」と分析しています。確かに。

そこに、今回参加した一般の人々が加わり、総勢120名が熱くワークショップを繰り広げたのです。それぞれに立場や意見、手段は違えど、その思いは「未来の子どもたちのため、輝く未来を遺すため」であり、皆がもつ共通のファンクションであり、筆者のミッションでもありました。

▍新しいムーヴメントは確実に起きている

一方で、「未来投資戦略2017」はどうでしょうか。3年後の経済成長を加速させるために必要な戦略ですから、かなり現実的です。もう既に動き出し、強みの分野に積極的に投資をしていこうというモノです。

経済の側面を短期的効果で見るとこうなるでしょう。現状からの延長線というか、対処的というか、「戦略」というよりも「戦術」のような印象を受けます。

「未来は誰のため?何のため?」。誰にとって満足できる未来を考えるのか、その未来で何を達成しようとしているのか。そういう点の違いが、2種類の異なる未来の姿となったのでしょう。

これまでの時代の流れ方と、まるっきり異なる流れ方が始まったように思います。否定や批難することは簡単ですが、この流れが大きなムーヴメントになるような気がしてなりません。

イノベーションを起こす時、ファンクショナル・アプローチでは次のように考えます。

* 今できるコトの中から、未来を選ぶのではなく、
* 理想の未来から、今挑むべきコトを選ぶこと。

目の前の波を乗り越えるコトも大切ですが、いつか誰かが大きく舵をきらなければ、私たちの船は目的地へたどり着けず、ただ漂浪するだけです。

今が舵を切るトキかもしれません。この流れが今後どう伸びていくか、注視していきたいと思います。